左折レーンのある交差点の直進は怖い【twitterより】
2020.06.08 にツイッターに上がったこちらの動画。
これについて、私なりの考えをまとめてみました。
- ■動画をよく見てみる:
- ■何が起きたのか:
- ■道路交通法上の論点と分析:
- ■道路交通法上、両者はどのように交通するべきだったのか:
- ■現実に即した自己防衛策としての自転車の走り方の検討:
- ■道路行政に携わる皆さんにお願いしたいこと:
- ■結語:
■動画をよく見てみる:
まずは、とりあえず動画をよく見てみましょう。こちらです。
興味深いツイート。このリプを丁寧に見ていくと、自動車運転免許を持っている人でさえ、自転車の交通ルールを知らない人が多くいるのがわかる。 https://t.co/A8dcTbrN6r
— Kirdina (@ordinaM3user) 2020年6月9日
うーむ、恐ろしい。まさに一触即発、間一髪でした。
■何が起きたのか:
動画から実際に何が起きたのかを解釈するのは、一見簡単なようでいて、実は非常に難しいことなのですけど、私がこの動画を見た解釈は、こんな感じです。
いかがでしょうか?
●ロードバイク側:
- 左折レーンのある交差点に、一番左側の車線(左折専用レーン)から進入した。
- この交差点を直進しようとした。
- 減速や一時停止は行っていないように見える。
- 後方確認を行ったかどうかは、少なくともこの動画からは確認できない。
●トラック側:
- 左折レーンのある交差点に、左から二番目の車線(左折兼直進レーン)から進入した。
- 交差点進入前の時点では、ロードバイクより後方にいた。
- ロードバイクの存在を認識していたかどうかは、この動画からは確認できない。
- この交差点を左折しようとした。
- ある程度の減速は行っているように見えるが、停止はしなかった。
■道路交通法上の論点と分析:
●ロードバイク側に法令違反はあったか?
片側に複数の車線がある道路を走行する場合、自転車は一番左側の車線を走行しなければなりません*1。これは左折専用レーンであっても同じだそうで、したがって、自転車はこのような交差点を直進する際には、左折専用レーンから直進することになってしまいます。はっきり言って、この交通方法は危険だと私は個人的に思っていますけど、法令上はそうなっているのですね。
そんなわけで、私が見た感じでは、このロードバイク側に法令違反があったようには見えませんでした。
いかがでしょうか?
●トラック側に法令違反はあったか?
このトラックが左折兼直進レーンから左折行動を行ったことは、もちろん問題ありません。
ただし、私がこの動画を見て気になったのは、ロードバイクとの位置関係です。
交差点進入前、このトラックはロードバイクより後方にいました。そして、まさに交差点に進入しようとする時点で両者は並び、交差点内でロードバイクを追い越すような形で左折行動を行っています。自動車にも自転車にも乗る私の理解では、交差点内での追い越しは禁止のはず。違いましたっけ?
この点においては、私はこのトラック側に法令違反に近い状況があったのではないかと思えてしまいます。
また、このトラックがこのような行動をとった原因の一つに、「このトラックドライバーはロードバイクが左折レーンから直進してくることを予測できていなかった」…ということがあるように思えます。つまり、このトラックドライバーの道交法についての無知があったのではないか…ということです。おそらく最大の原因はコレじゃないでしょうか。
■道路交通法上、両者はどのように交通するべきだったのか:
●ロードバイク側からの視点:
交差点進入前、このロードバイクはこのトラックより前方にいました。交差点進入前に後方確認を行ったかどうかは定かでありませんが、このロードバイクにとっては、自分より後方に位置するこのトラックの存在を十分に認識できなかった可能性がありますし、その挙動を判断するのは困難であったろうと思います。ずっと後ろ見てるわけにはいきませんからね。
●トラック側からの視点:
このトラックは、交差点進入前に前方にいるこのロードバイクの存在を認識できていたはずだと思われます。その上で、道路交通法上、自転車が左折レーンにいても直進してくる可能性があることを正しく理解し意識して、交差点に進入すべきだったのではないでしょうか。
そのためには、この動画よりも更に十分に減速して交差点に進入し、このロードバイクの挙動をきちんと確認の上、このロードバイクが直進するようであればこれを先に行かせてから左折を行うのが良かったように思います。そうしなければ、交差点内での追い越しになってしまいますからね。
■現実に即した自己防衛策としての自転車の走り方の検討:
理屈は以上のとおりと考えます。しかし、理屈どおりには進まないのが世の中というもの。「正しいのは私だ!あいつが間違ってるんだ!」…と、三途の川を渡りながらいくら叫んでも仕方ないわけでして…。私たちサイクリストは、いえ、サイクリストに限らずあらゆる交通プレーヤーは、この理不尽な世の中から自己防衛しなければならないのです。
今回の動画では間一髪で命拾いしたこのロードバイクでしたけど、これを教訓として、もし私がこのロードバイクの立場だったら、どのような自己防衛策を講じたでしょうか。ちょっと検討してみたいと思います。
●交差点手間で減速・一時停止?
危険そうな交差点を見つけたら、手前で減速もしくは一時停止し、状況を観察する。一般論としてならこれはアリだと思いますし、私も実際に行っています。交通量なども考え、「あー、この交差点はヤバイわ…」…と思ったら、私の場合は躊躇なく歩道に上がります。
しかし、今回の動画ではこの方法を難しくしている要因が2つあります。
- この道路には横断歩道がなく、歩道橋しかありません。自転車を押したり担いだりして歩道橋を渡るのは、とても大変です。自転車側は理不尽かつ非常な不利益を被ることになるわけです。
- 今回のケースでは、このトラック以外にこのロードバイクのすぐ後ろにもう一台の自動車(このドラレコを撮ってる自動車)がいます。交差点付近で道交法にない予測不可能な減速や停止を行った場合、この自動車に追突されないか不安です。
危険そうな交差点の手前で減速・一時停止。一見、安全そうに見えるこの対応も、ケースによりけり…だと思うのです。
●いったん左折してやり過ごしてから、道路を渡れる場所を探す?
自己防衛策としては、この方法もアリだと思います。でも、面倒ですけどねぇ…(苦笑)。渡れる横断歩道などがすぐに見つかれば良いですけど、こういう大きな道路は得てして歩行者等の交通に無配慮な場合がありますから、「歩道橋があるんだから横断歩道いらないじゃん?」…てな構造になっていたりしますよね。そうなると、左折後の次の交差点まで行かないと渡れない可能性が…。
●交差点内で減速する?
今回のケースにおいて、もし、このロードバイクがこのトラックの存在を認識し交差点内で減速していたら、どうなっていたでしょう?
おそらく、このトラックはこのロードバイクの目前で左折行動を行ったことでしょう。その結果、このロードバイクは行き場を失い、左折レーン内で停止せざるを得なくなります。しかし、このロードバイクの後方にはもう一台の自動車(このドラレコを撮っている自動車)がいますから…。追突事故発生の危険性が高かったように思います。
こうなってしまっては、このロードバイク側としては詰めろ…いや打つ手なしの必死状態であります。こんな事態は絶対に避けたいですね。
●そもそもこんな交差点には行かない?
地元の地理に詳しい方なら、この交差点を自転車で渡ろうなんて、思わないのかもしれません。うちは田舎町ですけど、我が家の近くにも明らかに自転車にとって危険そうな交差点や道路がいくつかありまして、私がサイクリングルートを組むときには、これらを徹底して避けております。だいたい、排気ガスで散々汚された空気を吸ってライドしても、気持ち悪くて全然楽しくありませんしね。どうせなら、緑に囲まれた美しい景色と空気の中を走りたいです。
しかし、地元民でなければ…、知らずにこんな交差点に入っちゃうなんてこと、あると思いますね…。
今の時代、グーグルマップとかあるわけですから、ライド計画を立てるときには十分な下準備をしたいものです。でも、気ままで自由な無計画ライドも好きなんですよね、私…。
■道路行政に携わる皆さんにお願いしたいこと:
●自転車に乗らないドライバーへの、自転車関連の交通法規の周知徹底:
今回のツイートとそのリプ欄を見ていて改めて気付いたことは、自転車に乗らないドライバーはいかに自転車関連の交通法規について無知か…ということです。
サイクリストへの啓発活動ももちろん大切ですが、それと同じく大切なのは、自転車に乗らないドライバーへの啓発活動であろうことを、私は疑いません。
運転免許を持っているドライバーは交通法規を熟知している…なんて、とんでもない買い被りの大嘘だと思います。だって、私自身が、自転車を趣味にするまで自転車の道路交通法を全然知らなかったですから!
●全ての交通プレーヤーに優しい道路設計への改革:
現在の日本の道路構造は、自動車中心主義となっております。自動車の利便性を高めるためであれば、他の交通プレーヤーには不利益を我慢させるのが、日本の道路行政の考え方になってしまっています。
これは、戦後の高度経済成長期、日本列島改造論の時代なら一定の合理性があったのでしょう。しかし、そんな時代は過ぎ去りました。
日本における自動車保有率は下がり、特に若者では自動車を持たない、持ちたくない人も増えました。個人がマイカーを保有する時代はやがて終わるのではないか…そうとさえ思える社会状況が生まれ始めているように思います。
自動車だけが優遇されている道路構造を改め、あらゆる交通プレーヤーが公共の利益を分かち合える道路にしていく必要があるように思います。
そのためには、歩行者、自転車、自動車の交通空間の物理的分離が必要だと私は思っております*2。
■結語:
今回のツイートについて、最終的にはツイート主も「このトラック側に非がある」…ことを認める旨を述べております。
無知を無知と非難することは簡単ですが、一人の人間を叩いてみたところで、それでは何も解決いたしません。現実社会がこのような状況にあることを受け止めた上で、その理不尽や不条理の中で自己防衛策として個々人が何をできるか考えつつ、同時に、社会をより良くするにはどうしたら良いのか、個々人が考えて発信していくことが必要だと思っている私です。そんなわけで、稚拙ながら私なりの意見を長々と書かせていただきました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。